トラウマ症状を緩和させる心理療法『EMDR』とは

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EMDRの表紙

「辛いことがあっても、時間が経てばきっと忘れられるよ」

そんな言葉に、傷ついた経験はありませんか?

確かに、私たちは日常生活の嫌な出来事の多くを寝たり、友人に話したりすることで自然と消化し、乗り越えていく力を持っています。

とげまる

これを心の「自然治癒力」と呼ぶんだ

しかし、あまりにも衝撃的な出来事や、自分のキャパを超える場面(トラウマ)に遭ったとき、この自然治癒力がうまく働かないこともあります。

もしそのような感覚に苦しんでいるとしたら、それはあなたの心が弱いからではありません。

脳の記憶処理システムが一時的にブロックされ、記憶が当時のまま凍結されてしまったからです。

この記事では、凍りついたトラウマ記憶を処理し、あなたの自然治癒力を動かすための心理療法「EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)」について解説します。

目次

EMDRはあなたが本来持っている「治る力」を引き出すアプローチです。

とげまる

いきなりだけど、質問です。
もし転んで膝をすりむいたとしても、小さな傷なら放っておけば自然に治るよね?

そうですね。かさぶたになって、そのうち消えていきますね

とげまる

実は、心にもそれと同じ「自然治癒力」があるんだ。
嫌なことがあっても、寝て起きれば「まあいいか」と記憶が整理されていく。これが本来の脳の働きなんだ

とげまる

でも、事故や虐待など「あまりにも衝撃が強い出来事(トラウマ)」に遭うと、この治癒力がエラーを起こして、傷がふさがらなくなってしまうんだ

生き物の体は本来、傷を防ごうとする「自然治癒力」があります。

私たちが何か嫌な出来事を経験しても、時間とともに脳内で処理・解釈され、リアリティのある体験から『過去の出来事』として整理されるようになります。

そして記憶にはポジティブなものと、ネガティブなものがあります。

トラウマ記憶の状態

健康的な人はポジティブな記憶が多くあり、仮にネガティブな出来事に出会ったとしても、ポジティブな記憶に吸収され、思い出しても当時の痛みを感じずにいられるようになります。

しかし、事故や虐待など、あまりにも衝撃が強い出来事(トラウマ)に遭うと、脳が処理できず、記憶が冷凍保存されたような状態になってしまいます。

鮮度を保ったまま凍ってしまっているため、当時の状況をありありと再体験してしまうようなフラッシュバックを起こすこともあります。

そうなると、いつまでたってもネガティブな記憶がポジティブな記憶へと吸収されることなく、居残り続けてしまいます。

それが様々な心身の症状や日常生活の活動に影響を与えますが、この冷凍保存されたトラウマ記憶を片付けるお手伝いをするのがEMDRです。

通常の記憶処理とトラウマの記憶処理との違い

通常のネガティブな記憶は、寝ている間に記憶が整理されて、ポジティブな記憶に吸収、消化される処理をたどります。

特に夢を見ている時は記憶を整理する時間と言われていて、些細なことやどうでもいいこと、都合の悪いことは気にならない程度に忘れさせてくれます。

このようにして私たちは嫌なことがあっても、前向きに生きていけるように脳が出来ているのです。

そして夢を見ている時、私たちの眼球は速いスピードで動き回っています(これがレム睡眠。レム:REMとはRapid Eye Movementの略です)。

一般社団法人日本睡眠学会 『睡眠と夢』

それを利用し、起きている時にも睡眠における記憶の整理のようなことを行うのがEMDRなのです。

EMDRではこのREM睡眠の効果と同じような作用機序をもたらして、本来持っている記憶の自然治癒力を促す形になります。

EMDRのセッションでは、ただ過去を思い出すだけではありません。つらい記憶に飲み込まれないように、カウンセラーが現実につなぎとめる役割を果たします。

もしトラウマ記憶が溢れ出しそうになったら、すぐにペースを調整したり、休憩を入れたりして、安全を確保します。

まるで、車の助手席に教官が乗って、いつでもブレーキを踏める状態で運転するようなものです。

だからこそ、安心して過去の記憶と向き合うことができるのです。

EMDRを何回か繰り返していくうちにトラウマ記憶の処理が進み、忘れていた他の出来事も思い出されて、記憶が徐々に統合されていきます。

凍結保存されていた記憶が、他の記憶や感情などと結びつき、トラウマ記憶を思い出しても徐々に薄らいで見えてくるようになります。

ただEMDR処理の最初のうちはトラウマ記憶に圧倒されたり、帰宅後にトラウマ記憶を思い出しやすくなったりなどの反動もありますが、徐々に薄らいでいきます。

とげまる

そんな反動が出るなんて怖い!と思うのは当然です。
でもEMDRでは事前に実施可能な状態か査定し、リラックス方法も身に着けてから実施するのでご安心を!

いきなりトラウマ記憶を扱うのではなく、事前にリラックス方法などを練習し、反動が来た場合の備えの準備を整えてから行いますので、安心して治療を受けられるのもこの心理療法のメリットでしょう。

①過去の出来事であって、現在は危険から離れられていること

もし今現在、DVや虐待の渦中にいるなら、優先すべきは「記憶の整理(EMDR)」ではなく避難です。
砲弾が飛び交う中で手術ができないのと同じです。
まずはシェルターや児童相談所など援助機関に相談し、安全な場所を確保し、心が「今はもう安全だ」と感じられてから、ゆっくりと傷の治療を始めましょう。
そのタイミングについても一緒に専門家と考えることはできます。

②トラウマを被ってから時間が経っていること

トラウマを被った直後もEMDRは控える方がいいでしょう。
状況が落ち着き一段落させることを優先させます。
また、人間は自然治癒力を持ち合わせているので、もしかしたら時間経過とともにトラウマ記憶が薄らいでいく可能性もあります。

トラウマ直後は、まず安心できる環境で心身を休め、脳の自然治癒力による回復を見守ることが一般的です。
多くの場合は時間とともに薄らぎますが、苦痛が激しく眠れないなどの場合は、早期から行える専門的なEMDRの方法(R-TEPなど)や医療的治療もありますので(お薬などで症状を緩和)、専門家にご相談ください。

③負荷の高いイベントや希死念慮など不安定な状態ではないこと

EMDRは治療として効果はありますが、それまでの間に不安定になることも当然ながらあります。
治療場所から自宅までちゃんと帰れるのか、生活を手伝ってくれる人はいるのか、いきなり生活費が底をつくような不安定な生活ではないかなど、じっくり治療に取り組められるような安心できる安定した環境である必要があります。


いかがでしたか?

ここまで、EMDRの仕組みや流れについてお伝えしてきました。

EMDRの治療目標は、過去の辛い経験を代謝(消化)し、あなたにとって役に立つ学びに変え、健康な現在へと繋げることです。

身体の傷が自然に治ろうとするように、あなたの脳にも辛い記憶を処理し、健康な状態へ戻そうとする力が必ず備わっています。

EMDRは、あなたの持っている自然治癒力にスイッチを入れるためのお手伝いにすぎません。

「もう何年も苦しんでいるから、治らないかもしれない」

そう思われる方もいるかもしれません。

しかし、脳の情報処理システムが一度動き出せば、過去の傷つき体験は「今、起きている苦痛」から、「過去のただの事実」へと変わっていきます。

トラウマの悩みは一人で抱え込む必要はありません。

専門的なトレーニングを受けた治療者(日本EMDR学会のトレーニングを受けた者)が、あなたの安全を守りつつ、トラウマ処理のサポートをします。

この記事があなたにとって、新しい解決策の一助になれば幸いです。

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