

- 「体調も良くなったし、もう大丈夫だろう」
- 「早く復職して、遅れた分を取り戻さなければ」
- 「でも、また同じように辛くなってしまったらどうしよう…」
メンタルヘルスの不調で休職し、症状が落ち着いてくると、多くの人がこのように感じます。
もう大丈夫!と思う人もいれば、また同じような状態になったらどうしよう…と不安を抱えるのも自然な感情です。
メンタルヘルス不調で休職して回復してきた頃にゴールとなるのは『復職すること』だけではありません。それ以上に大切なのが『再発・再休職しないこと』です。
どうしても私たちは長い間休んでいる状態が続くと、『復職』や『元の状態に戻ること』がゴールになりがちです。
今回は『再発・再休職しない』ために何をするといいか?について詳しく解説していきたいと思います。
この記事を読むことで
- 何度も再発してしまうメンタルヘルス不調の対策ポイントが分かります。
- 周りのサポートや協力を得られる工夫を知ることで、さらに再発リスクを減らすことができます。
1. メンタルヘルス不調(精神疾患を含む)は再発しやすい
まず大前提として、どうして再発防止や対策を講じる必要があるか?について、データを見ていきましょう。
うつ病などの精神疾患で休職した方が、復職後に再び休職してしまうリスクは決して低くありません。
(参考:平成28年度 「主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究」)
そして再休職の主な要因として、以下の点が挙げられています。
- 本人の休職要因が解決されていない(前回と同じ状況で、同じ反応をしてしまう)
- 職場環境が改善されていない(業務量や人間関係のストレスが変わっていない)
- 業務負荷の移行失敗(時短勤務からフルタイムに戻った途端に負担が増えた)
(参考:平成29年度 「精神障害者の就労移行を促進するための研究」)
この再発率の差はどこから生まれるのでしょうか?
それは、リワークが「ただ休んで治す」のではなく、「再発しないための武器(スキルと自己理解)を身につける」場所として機能しているからです。
1-1. 「治った」と「再発しない」はイコールではない
私たちが風邪を引いたとき、薬を飲んで寝ていれば、免疫がウイルスを退治して「完治」します。
しかし、うつ病や適応障害などのメンタルヘルス不調は、そのプロセスが異なります。
「自分が何にストレスを感じ、どう反応してしまうのか」という根本的な原因(考え方の癖や行動パターン)に対策を打たないまま元の環境に戻ると、同じことを繰り返してしまう可能性が高いのです。
またやっかいなことに、症状(気分の落ち込みや不眠など)が回復することと、実際の業務遂行能力(労働生産性)が回復することには時間のズレがあります。


症状が消えたからといって、すぐに以前と同じストレス環境に耐えられるわけではないんだ
だから復職後に「迷惑をかけたから、早く取り戻そう」「以前はもっと出来ていないのに、すぐに反応できない」と焦ってしまいやすくなります。
結果として、以前のような力を発揮できないことで自己嫌悪に陥ったり、周りの目を気にしてしまって再びしんどくなることも珍しくありません。
1-2. ストレスは相互作用で生まれる
ストレスは、ウイルスのように外から一方的にやってくる敵ではありません。
「ストレッサー(刺激)」と、それを受け止める私たちの「ストレス反応」との相互作用によって生まれます。
- ストレッサー: 業務量、人間関係、環境の変化など
- ストレス反応: 不安、イライラ、不眠、身体の痛みなど
同じ職場で同じ仕事をしていても、体調を崩す人と崩さない人がいるのはなぜでしょうか?
それは、各々が持つ「ストレスパターン」や「特性(得意・不得意)」、「ストレス対処の偏り」が異なるからです。
したがって、再発を防ぐためには、単にお薬で症状を抑えるだけでなく、「自分がどのような刺激に対して過敏に反応しやすいのか」という自己理解を深め、アップデートする必要があります。
特に今回休職に至った(過去に何回か休職している場合は、それらも含めて)「ストレスパターン」を分析することは、今後も過敏に反応しやすいシチュエーションでもありますので、振り返ることは今後の役に立ちます。
ストレスパターンやストレス対処については、ストレスマネジメントの記事が参考になりますので、よかったら合わせてみてください。


2. 再発防止の鍵は「自己理解」の深めること
メンタルヘルス不調はあくまで最終的に現れた「症状」であって、そこに至るまでのプロセスは千差万別です。
- 完璧主義で自分にプレッシャーを与えすぎたのか?
- 業務を抱え込みすぎて、キャパオーバーになったのか?
- 感覚過敏があり、オフィスの環境自体がストレスだったのか?
これらのプロセスは個人によって全く異なります。
だからこそ、自分の病気の成り立ちや陥りやすいパターンを深く理解する自己分析が、再発防止への近道となります。
2-1. ストレスパターンを知るために、全体像を把握しよう
まずは大まかな全体像として、休職に至った経緯を時系列で振り返り、以下の3つを具体的に振り返ります。
- 状況(ストレス因): どんな場面で?(例:急な仕事を頼まれた時、断れなかった時)
- 反応(ストレスサイン): 心と体に何が起きた?(眠れなくなった、自分を責めた、動悸がした)
- 対処(行動): その時どう考えて、どう対処した?(例:我慢して残業した、誰にも相談しなかった)
2-2. 「考え方の癖」に気づく
分析を進めると、「完璧でなければならないと思い込んでいた」「みんなも大変だから、周りに頼ることは迷惑だと思っていた」など、より自分を追い込んでしまう「考え方の癖」が見えてきます。
これに気づくことが、変化への第一歩です。
その「考え方の癖」は、その後の対処行動も連動して決まってきます。
「みんなも大変だから、周りに頼ることは迷惑だと思っていた」(考え方の癖)
↓
誰にも相談せずに、家でも仕事をしていた(対処行動)
結果として、このパターンで乗り切れることもあると思いますが、自分の体調との兼ね合いが大事です。
そのため、反応(ストレスサイン)がどういった状態にいるのか?にも気づけていることが、「このまま突き進んでしまうと崩れてしまうかも」とアラートポイントになります。
考え方の癖については、認知行動療法の記事が参考になりますので、よかったら合わせてみてください。


2-3. WRAP(元気回復行動プラン)でつくる自分の「トリセツ(取扱説明書)」
自分のパターンがわかったら、「次はどうするか」を決めます。
自己理解を具体的なアクションに落とし込むための有効なツールとして、WRAP(Wellness Recovery Action Plan:元気回復行動プラン)があります。
これは、精神的な困難を抱えた当事者たちが自らの知恵を集めて開発した、セルフケアのためのシステムです。
STEP① 【平時の備え】元気に役立つ道具箱
まず、自分が元気でいるために必要なこと、気分を良くする行動をリストアップします。
これを「元気に役立つ道具箱」と呼びます。
(例)朝コーヒーを飲む、散歩をする、好きな音楽を聴く、7時間寝る、誰かと話す
これらを「日常生活管理プラン」として毎日の習慣に組み込むことで、土台となるメンタルを安定させます。
STEP② 【予兆の検知】注意サイン(トリガー)を知る
次に、調子が崩れかけた時に出る「自分だけのサイン」を書き出します。
これは本人にしかわからない微細な変化です。
- 状況(トリガー): どんな時に?(例:急な仕事を頼まれた時、睡眠不足が続いた時)
- 反応(サイン): どうなる?(例:イライラする、メールの返信が遅れる、笑えなくなる)
(例)イライラしやすくなる、メールの返信が遅れる、笑えなくなる、眠りが浅くなる、身だしなみが適当になる
このサインはレベル1~3まで段階的に見つけておくといいでしょう。
レベル1は、早めに寝る、ゆっくりお風呂に浸かるなど
レベル2は、先輩や上司に相談するなど
レベル3は、主治医に相談するなど
それぞれの段階であらかじめ決めておいた対処法(例:予定をキャンセルして早く寝る、頓服を飲む)を発動させ、悪化を食い止めます。
STEP③ 【緊急対応】クライシスプラン
自分では判断ができなくなるほど調子が悪くなった時(クライシス)に、「誰に」「どうしてほしいか」を事前に決めておくのが「クライシスプラン」です。
- 全く喋らなくなったら、家族から主治医に連絡してほしい。
- 業務中に涙が止まらなくなったら、早退させてほしい。
責任ある判断ができなくなった時の「代理判断」を事前に依頼しておくことで、最悪の事態(無断欠勤や失踪、自傷など)を防ぎ、自分を守ることができます。
4. 「トリセツ」は会社との共通言語になる
作成した「トリセツ」は、自分だけで使うもの以上に効果を発揮することがあります。
復職時に産業医面談や上司、人事担当者と面談する機会が多いです。
その際にしんどくなってしまった背景や自分の振り返りを共有することで、個人として気を付けることも伝わりますし、会社としてもあなたが困る状況を生み出さない工夫や対処のアイディアを出してくれることがあります。
4-1. 会社には「安全配慮義務」がある
従業員に「自己保健義務」がある一方で、会社には「安全配慮義務」があります。
これは、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する法的義務です。
しかし、会社側はエスパーではありません。
あなたが「何にストレスを感じ」「どうなると限界なのか」を伝えない限り、会社はできうる適切な配慮(安全配慮)をすることができません。
- 「私はこういう状況でストレスを抱えやすい特性があります」
- 「体調が悪化する前兆として、こういうサインが出ます」
- 「その時は、このように配慮や相談に乗ってくださると助かります」
これらを伝えることで、会社側も「どう配慮すればいいか」が明確になり、職場環境の調整がスムーズになります。「察してほしい」ではなく、「トリセツ」を提示することで、会社とのミスマッチを防ぎ、環境側からの過剰な負荷を回避することができます。
逆に会社側があなたに必要以上に負荷をかけすぎていたことや、板挟みで苦労していたことなどを深刻に気づいていなかった場合もあるため、「環境調整」や「職場風土や職場体制」を見直すきっかけにも繋がります。
いかがでしたか?
メンタルヘルス不調の再発防止は、元の自分に戻ることではありません。
多様な状況や年齢の変化とともに、自分の守り方を知り、環境と調整する術を身につけた新しい自分へとアップデートすることです。
自分の特性や過去を深く見つめ直す作業は、一人では辛いこともありますし、会社にどこまで伝えればいいのかが分からなくなることもあるでしょう。
そんな時は、リワークプログラムなどの専門機関を頼るのも一つの手ですし、私たちのカウンセリングを使って一緒に「トリセツ」や自分を振り返る作業をお手伝いすることもできます。
専門家と一緒に「自分のトリセツ」を作り上げることは再発・再休職を防ぎ、今後の人生をあなたらしく生き続けるためのお守りにもなるはずです。
この記事があなたにとって、今後自分らしく生きていく一助になれば幸いです。









