

全3回にわたって、心身の不調を紐解くストレスのメカニズムについて解説してきましたが、いよいよ第3回目の最終回となります。
ここまで「考え方」や「心の仕組み」を見てきましたが、最後は「体」のお話です。


病院に行っても『異常なし』と言われる…
でも明らかに体の調子が悪い…
その正体は、あなたの体の中で24時間働き続けている「自律神経」が、ストレスによって悲鳴を上げているサインかもしれません。
この記事を読むことで、自律神経の機能である”アクセル”と”ブレーキ”の関係を知り、体のSOSを正しく受け取れるようになりましょう。
ストレスが体に与える影響〜「自律神経」との深い関係~
心身の不調を理解するための3つ目の枠組みは、私たちの体の中で休まずに働き続ける「自律神経」です。
この自律神経はストレスと深い関係にあります。
自律神経って、そもそも何?
自律神経とは、その名の通り、私たちの意思とは関係なく自律して、体の様々な機能を自動的に調整してくれている神経のことです。
たとえば、
心臓を動かす、呼吸をする、食べ物を消化する、体温を保つ、汗をかくなど
私たちが生きていく上で欠かせない働きを、意識しなくてもコントロールしてくれます。
この自律神経は、大きく分けて2つの種類があります。
「交感神経」と「副交感神経」の2種類で、車の「アクセル」と「ブレーキ」のように、正反対の働きをしながら、体のバランスを保っています。
交感神経(アクセル役):頑張る!活動モードのスイッチ
交感神経は、活動している時や、緊張や興奮している時、ストレスを感じる時に活発になります。
体を「戦闘モード」や「活動モード」に切り替えるスイッチのようなものです。
心拍数を上げてドキドキさせ、血圧を上げ、筋肉を緊張させ、瞳孔を開くことで、すぐに次のアクションに移せるように体を準備させます。
仕事や勉強に集中している時、スポーツをしている時などに主に働いています。
副交感神経(ブレーキ役):リラックス!休息モードのスイッチ
副交感神経は、リラックスしている時や、眠っている時、食事の後に主に活発になります。
体を「休息モード」や「回復モード」に切り替えるスイッチのようなものです。
心拍数を落ち着かせ、血圧を下げ、筋肉を緩め、消化を促進させて、体を休ませ、エネルギーを蓄えようとします。
眠っている間や、お風呂でリラックスしている時、食事中や食後などに主に働いています。
健康な状態では、この交感神経と副交感神経が、まるでシーソーのようにバランスを取りながら、必要に応じて切り替わり、私たちの体を最適な状態に保ってくれています。
ストレスがかかると、自律神経はどうなるの?
では、私たちがストレスを感じると、この自律神経のバランスはどうなってしまうのでしょうか?
ストレスを感じると、体は「危険だ!対応しなければ!」と判断し、まず交感神経(アクセル)を一気に活発にさせます。
危険な状況から自分の身を守るため、あらかじめ本能として備わっている自然で重要な反応です。
しかし、嵐を凌ぐ一時的なものであれば問題ありませんが、長期間続いたり、ストレスが強すぎると問題が起こります。
交感神経がずっと興奮しっぱなし、つまりアクセルを踏みっぱなしの状態になってしまうと、私たちのエネルギーは枯渇していきます。
副交感神経(ブレーキ)の働きが弱まり、自然な自律神経のシーソーのバランスが大きく崩れ、体が十分に休息・回復できない状態となります。
アクセルを踏みっぱなしでブレーキも効きにくい状態が続くと、私たちの心や体には様々な不調が現れやすくなります。
これが、いわゆる「自律神経失調症」と呼ばれる状態に近いものです。
たとえば、以下のような症状に心当たりはありませんか?


〇頭・感覚器系:
頭痛、頭が重い、めまい、立ちくらみ、耳鳴り、目の疲れ・かすみ
〇循環器・呼吸器系:
動悸、息切れ、胸の圧迫感、手足の冷え、のぼせ
〇消化器系:
食欲不振、胃もたれ、吐き気、便秘、下痢、腹部膨張
〇筋肉・関節系:
肩こり、首のこり、腰痛、手足のしびれ
〇皮膚・汗:
多汗、寝汗、皮膚のかゆみ
〇全身症状:
慢性的な疲労感、倦怠感、微熱が続く、朝起きられない、不眠
〇精神症状:
イライラしやすい、不安感が強い、気分の落ち込み、集中力がない、やる気が出ない
これらの症状は、自律神経のバランスが崩れ、体の各器官がうまく調整できなくなっているサインの可能性があります。
「気のせいかな?」「疲れているだけかな?」と見過ごされがちな不調も、実はこの自律神経の乱れが深く関わっていることが多いです。
※重大な身体疾患が隠れている場合もあるため、まずは内科など適切な診療科に診てもらいましょう。異常所見が見られない場合に『自律神経の乱れ』や『ストレスが原因』と言われることが多いです。
ストレスと自律神経は密接に関係しており、そのバランスの乱れは私たちの心身に大きな影響を与えます。
心身の健康を保つためには、自律神経のバランスを意識し、整えていくことが重要になります。
さて全3回にわたって、私たちの心身の不調がどのようにして起こるのか、その背景にあるメカニズムを、「生物心理社会モデル」、「ストレス脆弱性モデル」、そして「自律神経の働き」という3つの枠組みを通して見てきました。
これらの記事でお伝えした大切なことは
- 私たちの心と体は密接に繋がっており、不調の原因は一つだけとは限りません。
- 「生物・心理・社会」という3つの側面が互いに影響し合い、今のあなたの状態を作り出しています。
- ストレスは、その人の「素因(ダムの強度やヒビ)」と「ストレッサー(流れ込む水)」、そして「対処能力(放流能力や管理体制)」のバランスによって、心身への影響の現れ方が異なります。
- 自律神経のバランスの乱れは、ストレスが体に与える直接的な影響の一つであり、さまざまな不調を引き起こします。
これらの知識は、あなた自身、あるいは周りの大切な人の心身の状態を、より深く、そして客観的に見つめ直すための一助となるはずです。
「なぜこんなに辛いのだろう…」という苦しさだったものから、少しでも「なるほど、こういう仕組みだったのか」という理解に変わることで、漠然とした不安が和らぐかもしれません。
メカニズムを理解したその先の悩み~関連記事を紹介~
ここまで読んでくださったあなたは、
- じゃあ、具体的にどうすればこのストレスと上手に付き合っていけるの?対処法は?
- 自分のこの状態は、もしかして特定の病気なのかな?
- 周りが安心して過ごせるには、環境面をどう整えるといいか?
といった、さらなる疑問や関心が湧いてきているのではないでしょうか。
今回ご紹介した「生物心理社会モデル」や「ストレス脆弱性モデル」、そして「自律神経の働き」の視点を持つことで、私たちの心身に起こる様々な現象や、それらへのより深い理解、そして具体的な対処法へと学びを進めていくことができます。
以下の記事もご自身の状態や関心に合わせて、ぜひ読み進めてみてください。
これらの情報が、ご自身の状態をより深く理解し、具体的な一歩を踏み出すためのお役に立てれば幸いです。
1.『もしかして…?』具体的な精神疾患について深く知りたい方へ
生物心理社会モデルやストレス脆弱性モデルの視点から見ると、様々な精神疾患(例:うつ病、不安症、パニック症、統合失調症、発達障害など)も、その成り立ちや症状の現れ方がより深く理解できます。
各疾患の詳しい解説、ご本人や周りの方ができること、利用できるサポートなどについて知りたい方は、こちらの記事群が参考になるでしょう。
(→ 『精神疾患の理解』カテゴリーページへ)
2.『病気とは言えないけれど…』日々の困りごとや、つらい状況への理解を深めたい方へ
医学的な診断名がつかなくても、私たちは様々な心の問題や困難に直面します。
たとえば、燃え尽き症候群や空の巣症候群、あるいはひきこもりの問題、家庭内暴力(DV・虐待)、自分を傷つけてしまう行為(自傷行為)など、これらも心身が発する重要なSOSです。
これらの困りごとの背景にある心理や、適切な対応、相談先について知りたい方は、こちらをご覧ください。
(→ 『生活上の困りごとと心のケア』カテゴリーページなどへのリンクを想定)
3.『ストレスに負けない自分作り!』ストレス対処法(コーピング)を身につけたい方へ
「心のダム」に溜まっている水を上手に放流し、ストレスに対してしなやかに対応できる力を高めたい方も多いでしょう。
ストレスマネジメントの中でも、特に重要なのが「コーピング(ストレス対処行動)」です。
ここでは、心理学者のラザラスが提唱した理論なども参考にしながら、ご自身の状況や特性に合った多様なコーピングの種類を知り、実践していくための具体的なヒントをお届けします。
(→ 『ストレスマネジメント』カテゴリーページへ)
4.安心できる環境作りや心理的安全性について考えたい方へ
「心のダム」の強度を保ち、ヒビを安心して補修するためには、安全で信頼できる環境や人とのつながりが不可欠です。
職場や家庭、地域社会における「心理的安全性」とは何か、それが私たちの心身の健康や回復にとっていかに重要か。
また、孤立を防ぎ、支えとなるコミュニティをどう見つけ、育んでいくかについて、具体的な情報や考え方を提供していきます。
(→ 『コミュニティサポート』カテゴリーページなどのリンクを想定)
心身の不調は、誰にでも起こりうることです。そして、その背景には複雑な要因が絡み合っています。
今回の記事でご紹介した視点が、ご自身の心と体の声に丁寧に耳を澄ませ、より健やかな毎日を送るための一つのきっかけとなることを心から願っています。
もし、一人で抱えきれない悩みや苦しさを感じている場合は、決して無理をせず、信頼できる人や専門家の力を借りることも考えてみてくださいね。












