

3回にわたってお届けしているアンガーマネジメントのコラムもいよいよ最終回です。
ここまで読まれたあなたは、もう自分の怒りをかなり客観的に見られるようになっているはずです。
最後にお伝えするのは、「気持ちの表現」です。
アンガーマネジメントは、怒りを我慢することではありません。
適切な方法で相手に伝えて、スッキリ解決することがゴールです。
この最終回では相手も自分も大切にするコミュニケーション方法である「アサーション」を学んでいきましょう。
相手に適切な形で表現する
『怒り』をコントロールするために、衝動的な怒りを鎮めて、怒りの元となっている考え方や傷ついた気持ちなどの感情を整理したうえで、大事なことは相手に伝えたいという場面も多いでしょう。
その時にどう適切に伝えられるか?『怒り』を伴った内容を適切に伝えるのは簡単なことではありません。
そして、言うことが目的ではなく、相手にちゃんと伝わらなければ意味がありません(また相手に同じようなことをされてしまうかもしれません)。
相手へ伝えなければ問題解決に繋がらないことも多いのですが、伝えようとして言動が攻撃的になってしまったり、遠慮して伝えられず怒りが蓄積してしまったりすることは多く、”相手にちゃんと伝わる”というのは難しいことです。



でも大前提として、自分の事を大切にするためにも、怒っていることを伝えるのは大事
しかし、その際に相手の事を全く気遣わない、相手の事情や認識を確認しないで決めつけた態度で接してしまうと、相手を怒らせることにも繋がり、さらに怒りの悪循環の沼に巻き込まれてしまいます。
そこで、自分のことも相手のことも大切にするコミュニケーション法が役に立ち、アサーションという方法がアンガーマネジメントでは使われています。以下の記事で詳しく紹介していますので、よかったら見てみてください。


アサーションとは、相手との違いを認め相手を尊重しつつ、自分の気持ちや要望を率直に、誠実に伝えるコミュニケーションの考え方とスキルです。
アサーションを身につけると、人間関係のストレスが減り、自信が持てるようになるなど、メリットも大きいです。
アサーションでは、相手の立場も確認した上で、率直かつ具体的に自分の困っている状況を伝え(怒りだと、自分の理想や”~べき”と異なってしまった状況)、一次感情を交えながら説明すると、相手も受け入れやすいでしょう。
(例)時間は厳守す”べき”
【状況】
Aさん(ベテラン)は、「仕事の会議は、開始5分前には全員が着席しているべきだ」という強い信念を持っています。しかし、後輩のBさんはいつもギリギリか、1~2分遅刻して入室してきます。
【Aさんの怒りのプロセス】
(出来事):今日もBさんが会議開始時刻を過ぎてから、慌てて入ってきた。
(思考):「社会人として時間を守るのは当然だ(~べき)!皆を待たせるなんて、やる気がない証拠だ!」
(感情):強いイライラ、怒り、腹ただしい。
【対応プロセス】
- 自分の怒りと「べき」に気づくAさんは、カッと血が上るのを感じます。
「(…またイライラしているな。自分は『時間は絶対厳守』という”べき”が強いから、Bさんの行動が許せないんだな)」と客観視します。 - 怒りの奥の「一次感情」を探る。
「なぜこんなにイライラするんだ?…ああ、会議の進行が止まって困るし、計画通りに進めたいのに焦る。そして、準備して待っている私の時間が軽んじられているようで悲しいんだ」 - 「べき」を「私のお願い」に変換して伝えるAさんは、会議が終わった後、Bさんを個別に呼び止めます。
【アサーションの伝え方の例】
「Bさん、少し時間いいかな。今日の会議もそうだったんだけど、Bさんが会議の開始時刻を過ぎてから入室することが続いているよね(事実の共有) 。
私は、会議は時間通りに全員でスタートして、スムーズに議論を始めたいと思っているんだ。だから、途中で人が入ってくると、議論の流れが止まってしまって、私は少し残念に感じている(“べき”の押し付けではない、私の気持ち・影響)。
もし、やむを得ない事情で遅れそうな時は、始まる前にチャットで一本連絡をもらえるかな? あるいは、もし何か時間管理で困っていることがあるなら、私も相談に乗れるかもしれないけど、どうだろう?」(具体的な提案・依頼、相手の事情にも配慮)
ただし、アサーティブな自己表現をしたからといって、必ずしも自分の意見が通るようになるとは限りません(自分の意見を押し通せるコミュニケーション方法ではないです)。
お互いの事情や考え方の違いによって葛藤が起こる可能性もあるからです。



大切なのは、どちらかが安易に妥協するのではなく、お互いの歩み寄りや納得に近づこうとするプロセスや関係性そのものだよ
アサーションは、あなたの『怒り』の奥にある”一次感情”や”大切にしている価値観(コアビリーフ)”を、相手も自分も尊重しながら伝えるために重要です。
※アサーションは万能ではありません。世の中には、どれだけ丁寧に伝えても理解しようとしない相手や、そもそも話を聞くべきではない相手も存在します(ハラスメントやDVなど)。
いかがでしたか?私たちの誰もが持つ自然な感情である『怒り』のメカニズムと、その対処法について3回にわたって解説してきました。
アンガーマネジメントは、『怒り』の感情を否定するものではなく、自分の大事な価値観や考え方を改めて認識し、傷つけられた/困っている気持ちなど、自己理解にも通じるアプローチです。
そして、アンガーマネジメントは、すべての怒りを上手に伝えましょうという技術ではありません。
- 「この怒りは、伝える価値があるか?」
- 「それとも、今は離れるべきか?」
- 「自分の受け止め方を変えるべきか?」
この選択肢を冷静に持って、あなたを守れるようになること(コントロール)が重要なのです。
アサーティブに伝えても状況が変わらない時、それは「あなたの伝え方が悪かった」のではなく、「伝える」以外の選択肢(たとえば「距離を置く」「環境を変える」)を選んだほういいというサインなのかもしれません。
自分の本当の気持ちを認識したうえで、それをどう消化するか?相手に伝えるか?伝えないか?
この記事を読んだことで、『怒り』の感情に振り回されずに、うまくコントロールでき、建設的に自分や相手を大切にするヒントになれていれば幸いです。
- 『怒り』は他の感情と同じように大切なものです。怒りは「こうあるべき」というあなたの価値観や、「分かってほしい」「悲しい」といった一次感情が隠れているサインです。
- 『怒り』は二次感情です。カッとなった時は、その奥にある「不安」「悲しみ」「期待」などの本当の気持ち(一次感情)を探ることで、適切な対処の仕方が見えてきます。
- そして、あなたが大切にしている「~べき」や価値観が怒りの火種になることもあります。”こうあるべき”といった理想と現実のギャップが怒りを生みます。その「~べき」は、その場面で本当に守らなければならないものか、改めて見つめ直すことが怒りのコントロールのヒントになります。
- この記事で紹介したテクニックは、自転車の乗り方を本で読んだのと同じです。知識として「知っている」ことと、実際に「できる」ことの間には、大きな差があります。
大切なのは、今日から意識して練習してみることです。 まずは、次にカッとなった時に「あ、今、私怒ってるな。二次感情だな」と気づくことです。それだけでも、アンガーマネジメントの具体的な一歩を踏めています。 気持ちのクールダウンに失敗しても、アサーションがうまく言えなくても、自分を責めないでください。その「練習しよう」とした意識こそが、あなたの変化の始まりです。 - しかし、なかなか自分の怒りのクセや一次感情を見つけられない。そもそも怒りと距離を取れないということもあると思います。そういった時はいつでもお気軽に私たち専門家にご相談ください。あなたの『怒り』や気持ちに合った形で少しずつ『怒り』のコントロールについて、サポートさせていただきます。そして、最初はサポートありで解決していたものも、スキルとして身についていくと、ご自身一人でアンガーマネジメントができるようになるでしょう。








