

- 「また、言いたいことが言えなかった…」
- 「どうして、いつも自分ばかり我慢しているんだろう…」
- 「ついカッとなって、あとで気まずい雰囲気に…。もっと上手く伝えたかったのに」
相手を傷つけたくない、関係を壊したくないと思うあまり、うまくコミュニケーションが取れない時はありませんか?
置かれている立場や相手の状況などを考えて、自分の気持ちを押し殺してしまったり、逆に良かれと思って言った言葉がキツく映ってしまったり…。
私たちは日々のコミュニケーションの中で、小さな後悔やモヤモヤを抱えながら生きています。
あなたが人間関係において、なんだか疲れてしまうと感じているなら、あなたの「伝え方」ひとつでスッキリした気持ちに変えられるかもしれません。
この記事は前編と後編の2回に分けて、自分の気持ちにも誠実であり、相手と対等になって気持ちや意見を伝えるコミュニケーション方法である「アサーション」について、基本から具体的な実践方法まで解説していきます。
明日から使える”自分も相手も大切にしたコミュニケーション”のヒントが見つかることで、日々の人間関係のストレスが減り、よりあなたらしい生活になれることを願っています。
どうしてコミュニケーションが大事か?働いている人のストレス上位にある『人間関係』
| 心身のストレスに影響を与えるTOP5 | |
|---|---|
| 一般職 (正社員) | 管理職 |
| 仕事の量 | 業務量の増加と人手不足 |
| 仕事の失敗、責任の発生等 | 後任者の不在と部下育成の困難 |
| 対人関係(セクハラ・パワハラを含む。) | 部下マネジメントの複雑化・困難さ |
| 仕事の質 | 個人の学び・スキルアップ機会の不足と付加価値業務への未着手 |
| 会社の将来性 | 心身の健康問題とモチベーション低下 |
(参考文献)
- 厚生労働省(2025). 「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要:個人調査」
- パーソル総合研究所(2019). 「中間管理職の就業負担に関する定量調査 結果報告書」
- ラーニングイノベーション総合研究所(2023). 「管理職意識調査(部下へのフィードバック実態編)」
毎年厚生労働省が調査している中でも、『仕事の量』『仕事の質』『人間関係』は普遍的な悩みとして、常にランクインしています。
世代間ギャップなど昔から言われていた人間関係の難しさに加えて、近年は以下のトピックも出ています。
- ダイバーシティ
- 働き方改革
- 残業規制
- 人手不足
- ハラスメント
- メンタルヘルスによる離職の増加
など
職場風土が改善されていくとともに、コミュニケーションの難しさも増えているようです。
新型コロナウイルス蔓延以降に普及したテレワークでは、利便性と共にコミュニケーションの悩みも出てきました。


(参考文献)パーソル総合研究所(2025). 「第十回・テレワークに関する調査」(元データでは強調したい箇所に赤枠で囲っています。当コラムでは赤枠のみ削除して掲載しています)
カウンセリングでも、テレワークによってプライベートとの両立(育児や介護など)がしやすくなったり、苦手な人と物理的な距離を取れる安心感のメリットを得られた人もいます。
一方で、些細なことを気軽に聞けなくなったり、何か失敗した後に周りの反応やフォローが得られなくて不安感や孤独感を抱いたり、チームとの一体感を持てない人もいました。
厚生労働省の調査によると、『現在の自分の仕事や職業生活での不安、悩み、ストレスについて、相談できる相手』として、男性は『上司』(70.6%)、次いで『家族・友人』(59.1%)、女性は『家族・友人』(64.9%)、次いで『同僚』(58.9%)と多かったです。
| ストレスについて相談できる相手 (そのうちの実際に相談したことがある人) | |||
| 上司 | 同僚 | 家族・友人 | |
| 男性 | 70.6% (62.5%) | 62.5% (55.0%) | 66.2% (59.1%) |
| 女性 | 60.4% (55.7%) | 63.2% (58.9%) | 71.1% (64.9%) |
(参考文献)厚生労働省(2025). 「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要:個人調査」
ストレスと感じるのも人間関係ですが、困った時に相談を求めるのも身近な人間関係です。




自分自身を守るためにも、コミュニケーション力を高め、周りとの関係を良好に保つことは大事だね。
そのためにも今回お伝えするアサーションは、人間関係を良好に保つうえで大事なスキルです。
アサーションとは
アサーションとは、自分も相手も大切にしながら自己表現をする方法です。
必要以上に相手や自分自身を傷つけることなく、誠実に気持ちを伝えることを目指していきます。
アサーション(assertion)は日本語訳にすると『主張』という表現になりますが、自分の意見を主張できればいいという概念ではありません。
相手にも自己表現する権利があるので、相手のことも大事にしながら、自分のことも大事にして自己表現することを大切にしています。
そのため、対等で相互的な関係を築くことに焦点をおいてコミュニケーションを取ることが、アサーションにおける望ましい対人関係です。
3つのコミュニケーションタイプ
ノンアサーティブ(非主張型)


I’m not OK, You’re OK.
アグレッシブ(攻撃型)


I’m OK, You’re not OK.
アサーティブ(バランス型)


I’m OK, You’re OK.
アサーションの理論では、コミュニケーションのタイプは3つに分かれます。
『私はOKでない、あなたはOK』(I’m not OK, You’re OK.)のコミュニケーションタイプ。
周囲との調和を重んじる日本人には多いと言われています。
周囲に合わせられても、自分の考えや不満、反対意見を伝えられずにストレスを抱え込みやすい。
表現する時も相手の反応を気にして、曖昧な言い方や自己弁護的な言い方になることも…。
そのため、相手は自分の本音を理解できず、優越感や罪悪感を持ったりすることもあります。
一方で、自分自身は劣等感を持ち、惨めな気持ちになりやすいです。
『私はOK、あなたはOKではない』(I’m OK, You’re not OK.)のコミュニケーションタイプ。
自分の意見や気持ちを優先し、時には勝ち負けにこだわり、一方的に押し通そうとしやすいです。
結果として、相手に自己表現を促さない、相手が敬遠して我慢しているという場合も多いです。
自分の意向は通っても、強引さゆえに周囲との軋轢が生まれ、あとで後悔することもあります。
相手にとっては、大切にされた感覚を持てず、あなたと距離を取ったり、表面的なことしか話さなくなります。
『私はOK、あなたもOK』(I’m OK, You’re OK.)のコミュニケーションタイプ。
相手の気持ちや立場への配慮を忘れずに、自分の気持ちも大事にしながら伝えられます。
自分の本当の気持ちに気づいて、それを大事にした上で相手へ「伝え」、相手の事情や考えも「聴き」つつ、状況に応じたふさわしい形で意見を率直に伝えられるため、生産的なコミュニケーションにも繋がります。
状況によって自分の意見を採用されなくても、相手と誠実に話し合った結果のため、引きずることは少なく、人間関係は安定しやすいです。
同じ状況下でも、この3つのパターンからその後の関係性が少しずつ変わっていきます。
たとえば、
あなたは自分の仕事が終わり、楽しみにしていた予定のために定時で帰ろうとしています。
そこへ、焦った様子の同僚が「ごめん!このデータ入力が急ぎなんだ。少しでいいから手伝ってくれない?」と頼んできました。
あなたはその頼りを引き受けると、1時間は帰れないことが分かっています。
| ノンアサーティブ | アグレッシブ | アサーティブ | |
|---|---|---|---|
| 言葉 (返事) | 「あ、ええと…(本当は断りたいけど)…はい、大丈夫です…やります…」 | 「はぁ?もう定時ですよ。いつも計画性がないから、毎回そんなことになるんですよ。無理です。自分でやってください」 | 「大変そうだね。力になりたい気持ちは山々なんだけど、本当に申し訳ない。今日はどうしても外せない大切な予定があって、手伝うことができないんだ。明日の朝一番なら協力できるけど、それでも間に合うかな?」 |
| 態度 | ・困ったように曖昧な笑顔を浮かべる。 ・相手に困っていることを察してほしくて、自信なさげに小声で答える。 | ・腕を組み、呆れたように大きなため息をつく。 ・語気が強く、相手を責めるような早口でまくしたてる。 | ・相手に正対し、相手の目を見て穏やかな表情で話す。 ・申し訳ないという気持ちと、断るという意思の両方が伝わるよう、落ち着いた誠実な態度で話す。 |
| 直後の自分の気持ち | ・その場の気まずい雰囲気や、相手をがっかりさせる状況を回避でき、一瞬だけホッとする。 ・「また断れなかった…」と自分を責め、楽しみにしていた予定もキャンセルしたため、「なんで自分ばかり…」と心の中で不満が募る。 | ・一瞬、言いたいことを言えてスッキリする。自分の予定を守れたことに安堵。 ・後から「少し言い過ぎたかな…」と罪悪感や後味の悪さを感じるかも。 | ・必要以上の罪悪感や自分を責めることもなく、「自分の気持ちも相手の状況も尊重しながら、誠実に伝えることができた」という自己肯定感を感じる。 ・その後の自分の予定も後味悪くなく大切にでき、晴れやかな気持ちで過ごせる。 |
| その後の 人間関係 | ・同僚は感謝するが、あなたが無理していることには気づかない。 ・『あの人は優しいから』と認識され、今後も同じような頼み事をされやすくなる。 ・不満やストレスが蓄積し、ある日突然、相手との関係を断ち切る。 | ・同僚は、人格まで否定されたように感じて傷つく。 ・「あの人はキツい人だ」と周囲から敬遠され、協力関係が築きにくくなる。結果的に孤立しやすくなる。 | ・同僚は、断られて一瞬がっかりするかもしれないが、あなたの誠実な断り方と代替案の提示もあり、そこまで不快には感じない。 ・「あの人は可能な時は協力してくれそうだし、無理な時は正直に伝えてくれるから話しやすい」と認識され、長期的にも信頼関係が深まる。 |
このようにその後の人間関係や展開が、バタフライエフェクトのように少しずつ変わっていくでしょう。




でも、どんな場面でもアサーティブでいこう!ってわけじゃないよ!
置かれている環境や相手によって、自分のコミュニケーションタイプを使い分けてもいいです。
その後の展開がコミュニケーションタイプによって変わっていくわけですので、あなたがどういう人間関係を望んでいるかに依ってくるでしょう。
そのため、自分の本当の気持ちに気づき、それを大切にすることが何よりも大切なのです。
【やってみよう】あなたはどのコミュニケーションタイプ?
こちらは外部リンクですが、回答にチェックするだけで、自分がどのコミュニケーションタイプに該当するかが分かります(ただし、リンク先で紹介されているタイプは4つです)。
特定非営利活動法人 アサーティブジャパンさんがホームページ上に公開している質問紙で、大分前に私も研修に参加させてもらったことがあります。

余談ですが、アサーションという概念は巷で広がっていて、いろいろな方が”アサーション”について説明されており、雑多にもなっています。
私たち心理職がアサーションを学ぶときは、日本でアサーションを広めた第一人者である平木典子先生を参考にすることが多いでしょう。
当初は平木先生が(株)日本・精神技術研究所にてアサーション・トレーニングを開始されたため、こちらの機関が伝統的なアサーションの考え方になりますので、ご参考までに。

どうして「No」と言えないのか?背景にある思い込み
では、なぜ私たちはアサーティブではなく、ノンアサーティブやアグレッシブな伝え方を選んでしまうのでしょうか。その背景には、以下のような心理的な要因が隠されているかもしれません。
- 自己肯定感の低さ:
「自分の意見は呆れられるレベル」「どうせ言っても無駄だ」などの思い込みから、主張することを諦めてしまいます(ノンアサーティブ)。 - 他者からの否定的評価への恐れ:
「断ったら嫌われる」「わがままだと思われる」などの不安から、相手の要求を断れなくなります(ノンアサーティブ)。 - 過去の経験:
過去にイジメられたり、厳しくされた経験から「意見を言ったら、傷つけられる」「絶対に弱みを見せてはいけない」などの思いが強くなり、自分の気持ちを強引に押し通す行動へ繋がります(ノンアサーティブ・アグレッシブ)。 - 認知の歪み(思い込み):
「自分の気持ちより、場を丸く収めることが最優先だ」「社会人でNoと言うことは、やる気がないのと同じだ」といった、どんな場面でも極端な捉え方の癖を適用させると、アサーティブな行動を妨げます。
もし、「No」と言うことに苦労しているとしたら、あなたの中で『断る』ということに対して、以下のような捉え方の癖を持っているかもしれません。
| 捉え方の癖 | 現実的には… |
|---|---|
| もし断ったら、相手を傷つけることになるだろう。 | 相手の気持ちを察することで、相手を尊重した一言を織り交ぜながら「No」と言うことはできます。 |
| もし断ったら、相手と喧嘩になってしまうだろう。 | 断るということは、人間関係をおしまいにするということではありません。相手と喧嘩せずに断ることもできます。 |
| 私には「No」と言う権利がない。誰かが私に何かを要求してきた場合、必ず引き受けなければならない。 | 「No」と言う権利は誰にでもある人権です。他人の言いなりにならないために、「No」と言うことも大切です。 |
| 私が要求に応じたくないと思っていることを、相手が察するべきである。 | 自分の気持ちについて相手が察してくれるのを待つのではなく、自分の方からはっきり伝えなければなりません。そのほうが好ましい、対等な関係です。 |
| もし断ったら、嫌な気分になるだろう。 | 確かに断るというのは、気分のよいものではありません。しかし、相手の気持ちを尊重しながら断れば、変な罪悪感を抱くことはないです。 |
| 「No」と言うのは、相手と敵対することである。 | たとえ考え方が違ったとしても、十分話し合って、妥協点を見つけることはできるかもしれません。 |
| 「No」と言うのは、利己的な態度である。 | 人生には、自分の身を守るために、「No」と言わなければならない時もあるでしょう。 |
| 「No」と言うためには、弁解して、自分を正当化しなければならない。 | たいていの場合は、ことさら弁解することなく、穏やかに「No」と言って受け取ってもらえることも多いです。 |
これらの背景を理解することは、自分を責めるためではありません。
「アサーティブになれないのは、自分の性格が悪いからだ」と考えるのではなく、その背景にある心の癖を知ることで、初めて引っかかりが取れ、具体的なアサーティブなコミュニケーションが可能になるのです。
誰しも自由に自己表現する権利を持っている「アサーション権」
アサーション概念の根底として、自分にも相手にも持っている「自己表現の権利」という基本的人権を尊重するというのがあります。
感じたことや考えたことを言葉で表現する権利は誰にでもあり、他者の権利を侵害しない限りにおいて、その権利が保障されています。
大切なのは、その権利は自分だけではなく、自分以外の他者も同様の権利を有することを認めることが前提となる点です。
自分と他者の双方を尊重する経験の積み重ねによって、アサーティブな自己表現が身につきます。




厳しい環境下にいると見失いやすいけど、誰もがアサーションの権利を持っていて、基本的人権の一つだということを忘れないで!
- アサーション権Ⅰ:私たちは、誰もがアサーション権を持っている。
- アサーション権Ⅱ:私たちは、誰からも尊重され、大切にしてもらう権利がある。
- アサーション権Ⅲ:私たちは、自分の行動を決める権利がある。
- アサーション権Ⅳ:私たちは、誰でも過ちをし、それに責任を持つ権利がある。
- アサーション権Ⅴ:私たちには、支払いに見合ったものを得る権利がある。
- アサーション権Ⅵ:私たちには、自己主張をしない権利もある。
自分は「大切にされていい」「意見を伝えていい」という自尊感情と、相手は「自分を大切にしてくれる」「意見を聞いてくれる」という安心感や信頼感が相互に生まれることで、他者を尊重する気持ちに繋がっていくでしょう。
アサーション前編いかがだったでしょうか?
ここまで、コミュニケーションの3つのタイプや、私たちが持っている「アサーション権(自己表現の権利)」についてお話ししました。
「私にも、断る権利があったんだ!」
「相手を傷つけずに、自分も守っていいんだ!」
そう思えるだけで、心の重荷は少し軽くなることも十分あります。
しかし、いざ実践しようとすると、「頭ではわかってるけど、具体的な言葉が出てこない…」と悩みますよね。
アサーションには「誰でも・感情的にならずに・うまく伝わる型(フレームワーク)」も存在します。
次回の後編は、その具体的な「型(DESC法)」を使って、今すぐにでも使えるセリフの作り方を徹底解説しますので、よかったら続きも見てくださいね。











