

アサーション前編の記事では、自分も相手も大切にする「アサーション」の考え方についてお話ししました。


言う権利があるのはわかった。でも、実際に上司や同僚を目の前にすると言葉に詰まってしまうよ…
こういった疑問や難しさが出てくるのではないかと思います。
頭で理解していても、 多くの人はその場でとっさに言葉を紡ごうとするものです。



私もコミュニケーションがそんなに得意ではなく、咄嗟に言葉が出てこないこともよくあります
幸いなことに、アサーションはコミュニケーションの表現方法でもあり、「型(フォーム)」も存在しています。
スポーツと同じで、「型」さえ身につければ、ある程度上手に打てるようになります。
今回は、アサーションの型でもある「DESC法」と「Iメッセージ」という2つの方法を実践例も交えながら紹介します。
これを使えば、「言えなくてモヤモヤする」ことのハードルが下がるかもしれませんよ。
アサーティブに表現しやすくなるステップ方法(DESC法)
アサーティブな伝え方の具体的なフレームワークとして、「DESC法」があります。
伝えたい内容を4つのステップに分解し、ステップを踏んだセリフを前もって組み立てておくと、スムーズにアサーティブな表現がしやすくなります。
- D(Describe):描写(客観的な状況)
客観的、具体的な状況や相手の言動を描写する。 - E(Express、Empathize):表現、共感(主観的な気持ち)
状況や相手の言動に対する自分の主観的な気持ちを表現したり、相手の気持ちに共感する。Iメッセージの活用。 - S(Specify):特定の具体的な提案(提案する)
相手に望む行動、妥協案、解決策など、特定の具体的な提案をする(妥協案、希望、解決策など)。 - C(Choose):選択(代案する)
相手からの肯定的、否定的な返答を想像し、それに対してどういう行動をするか選択肢を示す。
※伝える時は、非言語的な様子を一致させることも大事です。真剣に困っていることを相談したい時に、ニコニコした表情で伝えてしまうと、相手は『そこまで重たくない話なのかな』と非言語情報に引っ張られてしまうからです(メラビアンの法則)。
DESC法のC(選択)で、相手から否定的な返答が来た場合
DESC法で伝えたが、相手が応えてくれなかった…と諦めてしまい、また元のコミュニケーションタイプに戻る方もいらっしゃいます。
仕方がない時もあるのですが、相手がどうしてNoと言ったのか?相手の事情を具体的に確認していない方も多いです。
厳しい状況ほど、一回で完結するコミュニケーションはむしろ稀かもしれません。
相手にも『No』を言う権利はありますので、そこでも相手の事情を考慮した上で、自分の気持ちも大切にしながら、さらに折衷案をトライしてみることが大切です。
DESC法を練習してみよう
コミュニケーションはリアルタイムでやり取りすることも多いです。
理解だけでなく、実際に練習しながら考えてみると、あなたの咄嗟の引き出しワードが増えるので、ぜひやってみましょう。



以下は練習問題だよ。DESC法を使って、自分だったらどう答えるか?練習してみよう。
(練習問題①)
あなたはプロジェクトリーダーとして、週次の進捗レポートをまとめています。
他部署の担当者であるAさんに、毎週木曜の午前中までにデータを提供してもらう約束になっていますが、ここ3週間ほど、催促をしないとデータが届きません。
Aさんは「営業活動が忙しい」と言い訳をしますが、あなたがレポートを金曜の朝一番に役員へ提出しなければならないため、木曜の夜にサービス残業をして対応する状況が続いています。
角を立てずに、しかし確実に期限を守ってもらえるよう、Aさんにアサーティブに伝えましょう。
D(Describe):描写(客観的な状況)
Aさん、今週の進捗データの件でお話ししたいことがあります。
実はここ3週間、データの到着が木曜の夕方以降になっていて、今日もまだ届いていない状態なんです。
E(Express、Empathize):表現、共感(主観的な気持ち)
営業活動が最優先で、事務作業に時間を割くのが大変な状況なのはよく分かっています。
ただ、私も金曜朝の役員会に間に合わせるために、木曜の夜に急いで集計作業をすることになっていて、正直なところ負担を感じて困っています。
S(Specify):特定の具体的な提案(提案する)
もし可能なら、毎週木曜の12時までにはデータを送ってもらえないですか?
もし午前中の提出が難しいなら、水曜日のうちに一度状況を教えてもらえると助かるのですが、どうでしょうか。
C(Choose):選択(代案する)
返答がYesの場合:ありがとうございます。そうしてもらえると本当に助かります。来週からお願いします。
返答がNo(「どうしても営業から戻れない」等)の場合:そうですか、外出が多いと難しいですよね。それなら、数値が確定していなくてもいいですから、現時点での概算だけ先にもらう形にするか、あるいは入力担当の〇〇さんに代わりにお願いすることはできそうですか?
※いきなり次の代案を出すだけでなく、AさんがNoと言う事情もあるかもしれないので、相手に自己表現できるよう促すほうが丁寧でしょう。その上で、何かしらデータが届かないと困るので、妥協案をさらに提案する。
(練習問題②)
人手不足で全員が多忙な中、あなたは最近体調も悪化気味で、周りも体調が悪い状況下で働いています。
しかし、あと2週間乗り切れば、山場を越えられそうです。
そんな中、上司からさらに急ぎの仕事が依頼されました。
これ以上、負荷が増えると仕事上でミスを起こしてしまいそうです。
D(Describe):描写(客観的な状況)
この新しい〇〇の件ですね。お急ぎなのは承知しました。
ただ現在、私が抱えているタスクですが、本日締め切りの△△の資料作成と、明日午前中が期限となっている最優先事項の□□の準備がございます。
これに間に合わないと、お得意先の◇◇様に大変ご迷惑をお掛けしてしまいます。
E(Express、Empathize):表現、共感(主観的な気持ち)
みんなも忙しい中、こちらの新しい〇〇の件も重要でお急ぎだとは承知しております。
ただ正直に申し上げますと、私の現在の業務量でこのままお引き受けすると、既存のタスク、特に△△や□□の品質が落ちてしまったり、最悪の場合、納期に間に合わなくなる可能性を懸念しております。
S(Specify):特定の具体的な提案(提案する)
大変恐縮なのですが、 私が今抱えているタスクと、今回ご依頼いただいた新しいタスクを含めて、どの業務を最優先とすべきか、ご指示をいただくことは可能でしょうか。
もし新しいこのお仕事を最優先とする場合、明日午前中が期限の□□の準備を少し後ろ倒しにするなど、お得意先の◇◇様との調整が必要になるかと存じますので、その調整をお願いできないでしょうか。
C(Choose):選択(代案する)
返答がYesの場合:ありがとうございます。それではこちらに切り替えて専念します。
返答がNoの場合:承知しました。それでは、万が一納期に影響が出そうな場合は早めに相談させてください。もしくは、新しい〇〇の件は先輩Aさんも詳しいため、一緒に手伝ってもらえるよう調整お願いできますか。
※今回は無理して頑張らざるを得ない場合もあるでしょう。その時は、次回このような状況にならないよう上司に外部との調整をする際に、事前にメンバーの意見も聞いてほしいと伝えるのもいいかもしれません(ずっとノンアサーティブに我慢しないようにする)。
ただし、毎回DESC法で話すと畏まった人間関係になります。
DESC法を使う時は、
- 他に言うのが難しいことを話すとき
- 何と言ったらよいか迷うとき
- 話が複雑できちんと整理する必要があるとき
- 自分の気持ちや考えを明確にしてから話す必要があるとき
改まって伝えたい時により効果を発揮するでしょう。
たとえば、前半の記事で紹介したような、テレワークで相手の顔が見えない時にもこのDESC法は役立つでしょう。
Iメッセージを活用して、自分の気持ちの表現をマイルドにする
私たちは困っている気持ちを相手へ伝える際、つい感情的になったり、常識に当てはめたりして、キツイ言い方になってしまう時があります。
そのような時はメッセージの主語を「私は~」にして、文章を組み立て直すとマイルドな言い方になりやすいです(これを『Iメッセージ』と言います)。


(あなたは)なんで帰ってくるのがこんなに遅いの!


仕方ないだろう!こっちだって仕事の付き合いがあるんだよ!
この場合では、主語は「私は」でなく、「あなたは」となっています(これを『Youメッセージ』と言います)。
私たちは伝える時に主語を省略していることが多く、「あなたは」が主語になっている時は相手を否定・責めているような受け取られ方になりやすいです。
人間は攻撃されていると感じると、自己防衛として攻撃的に反論してしまいやすいものです。
こうなると些細なことをきっかけに喧嘩へと発展してしまうことがあります。
伝えたいメッセージとしては、相手に対する怒りももちろんあるでしょうが、怒りの背景に隠れているあなたの感情(心配していた、困っていた)を伝える方がマイルドになりやすいです。



帰ってくるのが遅かったから、私は心配していたの



帰ってくるのが遅かったから、私は○○に追われていて困っていたの
同じ内容を伝えるにしても、「私は○○してほしい」「私は○○○と感じている」のように、「私」を主語にして伝えることで、相手にとっては受け止めやすいメッセージとなります。
Iメッセージを練習してみよう
Iメッセージも同様に練習してみると、咄嗟の引き出しが増えるので、ぜひチャレンジしてみましょう!
(練習問題)YouメッセージをIメッセージに言い換えてみよう
練習①
(状況)会議や打ち合わせの最中、あなたが説明している途中で同僚が割って入ってきました。
(Youメッセージ)「最後まで話を聞けよ!(遮るな!)」
(Iメッセージ)「最後まで説明しきれると、伝え漏れがないか確認できて(私は)安心するんだ。一度最後まで話してもいいかな?」
ポイント:「遮るな」と相手を制限するのではなく、「最後まで話せると自分が安心する(助かる)」という自分の状態を伝えます。「自分がどうしたいか+どう感じるか」をセットにするとよりよいでしょう。
練習②
(状況)部下のアウトプットが期待を下回っています。
(Youメッセージ)「もっとやる気を出して仕事をしてよ」
(Iメッセージ)「あなたの成長を期待しているので、まずは期限の1日前までに進捗を報告してもらえると、私は安心できるんだ」
ポイント:「やる気」という曖昧な言葉を避け、何をしてくれると自分がどう助かるか(安心するか)を具体化します。
練習③
(状況)共有フォルダのルールを守らないメンバーに対して。
(Youメッセージ)「なんでいつもルールを無視して、変な場所に保存するの?」
(Iメッセージ)「決まった場所にないと、私が必要な時に探せなくて困ってしまうんだ。次からは〇〇フォルダに入れてくれると助かるな」
ポイント:「なぜ?(Why)」という問い詰めは相手を防御的にさせます。自分の困りごとを理由として添えるのがコツです。
練習④
(状況)会議中に発言しないメンバーに対して、自分自身の価値観を押し付けそうになった時。
(Youメッセージ)「会議で発言しないのは、やる気がない証拠だと私は思うよ」
※「私は思う」とIメッセージに見えますが、中身は相手への決めつけ・評価になっています。
(Iメッセージ)「あなたの意見も聞きながら進めたいと思っているから、沈黙が続くと、納得してくれているのか分からなくて私は不安になるんだ」
ポイント:「相手がどうか」という評価を一度捨てて、「自分自身の不安や願い」という純粋な気持ちまで掘り下げます。
コミュニケーションとは、自分の意図が相手に伝わることが大切です。
Iメッセージを活用することで、お互いに感情や考えを整理しやすくなり、異なる価値観を相互理解していくことに繋がるでしょう。
今回は、自分も相手も大切にするコミュニケーション方法である「アサーション」について、前半と後半の2記事にわたって、その考え方から具体的な実践方法までを解説してきました。
アサーションとは、あなたの気持ちを押し殺す「自己犠牲」でも、相手を言い負かす「自己中心」でもありません。
それは、あなたと相手との間に『誠実』で『対等』な関係を築き上げていく大事な関わり方や姿勢です。
この記事があなたのコミュニケーションの悩みを解消してくれる一歩になれれば幸いです。
- 今回お伝えした『アサーション』は、自己表現が大事なアメリカの人権運動から始まっています。
その後、平木先生が日本文化に合うように開発してくださり、現在は日本人にとっても重要なコミュニケーションとして広まっています。 - もちろん、明日からすべてが完璧にできるわけではありません。
置かれている立場や相手によっては、言い淀んだり、感情的になったり、コミュニケーションの癖が出てしまうこともあるでしょう。
それは私も含めて、みんなそんなものだと思います。 - でも大切なのは、完璧を目指すことではなく、「自分も相手も大切にしよう」という姿勢を忘れずに、些細なやり取りから少しずつ実践を続けてみることです。
些細なことであっても、気持ちのよいやり取りができた成功体験が、あなたの自信となり、次の挑戦への勇気を与えてくれます。
その繰り返しの中で、いつの間にか人間関係のストレスが軽くなっている!となれていたら幸いです。 - もし、長年のコミュニケーションの癖に一人で向き合うのが難しいと感じたり、過去の経験がブレーキになってどうしても一歩が踏み出せないと感じたりした時には、私たち専門家の力を頼ることも考えてみてください。
カウンセリングでは、あなたが安心して自己表現の練習をし、アサーティブな自分へと変わっていくプロセスもサポートさせていただきます。
コミュニケーションは相手があって成り立つものですので、一人で全てを乗り越える必要はありません。いつでも私たちを練習相手や相談先として利用してみてくださいね。
今日紹介した内容と関連する記事には、以下が参考になると思いますので、よかったら読んでみて下さい。
①自分の考え方の癖との付き合い方を整理したい方はこちら(「認知行動療法とは?」)










