

ストレスマネジメントについての解説もいよいよ最終回です。
今までストレスのメカニズムと、どういった要因が組み合わさってストレスと感じるかを説明してきました。
あとは「どうストレス対処するか(コーピング)」です。
多くの人は、ストレス解消法というと、お酒を飲むとか寝るとか、数個しか持っていません。
コーピングのポイントは、「質より量」が大事です。
あなたの引き出し(対処法)を今日ここで一気に増やして、どんなストレスが来ても「どれカードを切ろうかな?」と選べる自分になりましょう。
どういうストレス対処がいいのか?(対処(コーピング)~再評価まで)
④対処(コーピング)→⑤ストレス反応→⑥モニタリングと再評価の流れについての説明です。


出来事をストレスフルだと判断し、対処可能かどうかを評価した上で、④対処(コーピング)を意識的にも無意識的にも選択します。
コーピングとは、ストレスにうまく対処しようとする思考や努力のことを指します。
コーピングは大きく2種類(問題中心型、情動中心型)に分類されます。
ストレッサーそのものに働きかけて、解決を図ろうとする対処です。
さらに小分けすると、
- 自分で解決しようとする『積極的問題解決』
- 他者を頼りながら解決しようとする『問題解決のための相談』
があります。
たとえば、原因分析、計画立案、解決のために情報収集、相手への説得、自己主張、徹夜して乗り切る、相談するなど、問題解決に直接繋がる行動が挙げられます。
ストレッサーそのものに働きかけるのではなく、考え方や感じ方を変えて、気持ちを安定させようとする対処です。
さらに小分けすると、
- 状況の良い面を考える『視点の転換』
- 積極的に気分を変える『気分転換』
- 誰かに愚痴を聞いてもらう『他者を巻き込んだ情動発散』
- 何もしないで我慢する『回避と抑制』
があります。
たとえば、問題から目をそらして趣味に没頭する、お酒を飲んで愚痴を吐く、美味しいものを食べる、運動する、今後の自分に役立つポジティブな面を探す、ユーモアな解釈、ひたすら寝るなど、気分を和らげる行動が挙げられます。
(引用)影山隆之.「勤労者のためのコーピング特性簡易尺度(BSCP)の開発:信頼性・妥当性についての基礎的検討」.『産業衛生学雑誌』,2004,46,p103-114.
コーピングを柔軟に使い分けることが効果的
「ストレス対処は〇〇すればいい」という風に、コーピングを単一的・固定的なもので考えるのではなく、「プロセス」として捉えることが重要です。


どちらかのコーピングが優れているというわけではなく、状況や体調によって柔軟に使い分けることが重要だよ!
単発的には、私たちはそれぞれのコーピングを自然と使い分けているかもしれません。
演台で不安になる人は、まず深呼吸をして気分を落ち着かせる情動中心の対処をします。
そのことによって冷静さを取り戻し、原稿に目を配ってうまく発表できるように問題中心の対処へ移行する「プロセス」はよく見られます。
しかし、私たちが実際に抱えるストレスには長期的に続くものも多いです。
ストレッサーがどう展開していくかによって、実際の対処行動の内容も変化していけるといいでしょう。
たとえば、
上司とうまくやれず、問題が前に進まなかったので、情動中心の対処でその時期を耐え忍んだとします。
やがて上司が異動するなど環境が変化した時に、今まで分析してきた問題中心型コーピングへ切り替えて事態が進むこともあります。
最初から上司に対して問題中心型コーピングで粘り強く頑張るのもいいですが、事態が変わらずにずっと闘い続けると疲労困憊することも考えられます。
時と場合によっては、情動中心型コーピングをメインに切り替えて、省エネモードでやり過ごすことも必要かもしれません。
逆も然りです。最初から情動中心型コーピングをメインにして問題解決を避け続けると、良くなっていたかもしれない上司との関係も距離が遠いままとなってしまいます。
ネガティブな結果が出て、ストレス反応も悪化しているにも関わらず、同じコーピングを使い続けてしまうと、悪循環にはまってしまう場合もあります。
今のやり方を続けることで状況はどう展開しているか?
前に進んでいるのか?
停滞しているのか?
自分のストレス反応はどうなっているか?
俯瞰してモニタリングすることが重要です!
その結果を受けて、状況やコーピングを再評価し、時には別のコーピングへと柔軟に変えて、また新たな認知的評価を行っていく・・・。
この絶えず変化していく思考や行動の努力が、ストレスマネジメントで最重要となります(⑥モニタリングと再評価)。
コーピングは質より量
コーピングは『質より量』とも言われます。
ストレスフルな状況は時間ともに展開していき、その時々に見合ったコーピングが必ずあるはずです。
状況によっては、問題を「受け入れる」「無視する」「耐える」といったことも、大切な戦略です。
コーピングを柔軟に使い分けるためには、コーピングの量も重要です。
あなたはどのタイプのコーピングをどれくらい持っていますか?
もしバランスが悪ければ、これを機に増やしてみることでストレスとの付き合い方が少し楽になるかもしれません。
周囲のサポートが与える影響
サポート資源はあらゆるプロセスに影響を与えることができます。
サポート資源は非常に重要な概念でもあるため、別記事でもまとめています。
(サポート資源の記事へリンク予定)
サポート資源は、ストレスフルな状況下での負担を軽減し、問題解決を具体的に助けることで、メンタルダウンを防ぐことに繋がります。
たとえば、
上司がストレスフルな業務を、部下へ依頼する状況を想像してみましょう。
一次的認知評価の時点では、
上司が部下に業務の目的や期待を明確に伝え、
「成長のチャンスであり、期待している」
「困った時はいつでも助けるから、一緒に乗り越えよう」
前向きなメッセージを添えることで、部下はその状況を「脅威」としてではなく「挑戦」として捉えやすくなります。
二次的認知評価の時点では、
上司や周囲があなたのこれまでの努力を肯定的にフィードバック
「〇〇さんにも教えてもらえば、あなたの助けになる」と励ます
目標達成のための具体的なリソース(時間、情報、他者の協力など)を示す
適切な手順をアドバイス
これらはあなたの「効力期待」や「結果の期待」(自己効力感)を高めるでしょう。
以上、3回にわたってストレスマネジメントについて解説してきました。
ストレスを”スパイス”にすることができると、人生はハリのあるものに変えることもできます。
そのためには気合と根性も大切ですが、それ以外にもストレスを乗り越えるためのさまざまなコーピングやサポート資源を活用してみましょう。
ストレスに強い/弱いは、あなたの資質の問題ではありません。
ストレスマネジメントを理解し、たくさんのコーピングを見つけられると、自分でうまくストレスをコントロールできるでしょう。
- 今回お伝えしたストレスマネジメントは、かなり複雑で総合的に書いた内容となります。
全てを理解することは難しくても、コーピングだけでも理解が進むと、十分な助けになると思います。 - もし自分の置かれている状況を整理して、うまくストレスマネジメントをしていきたい場合には、専門家である私たちカウンセラーに相談することもできます。
困った時は、あなたの新たな『サポート資源』としてご活用ください。
影山隆之.「勤労者のためのコーピング特性簡易尺度(BSCP)の開発:信頼性・妥当性についての基礎的検討」.『産業衛生学雑誌』,2004,46,p103-114.







